ウィーゼル製作所物語-PAGE3-

 DOS/V magazineで連載中のコラム「日々是好日日記」にて番外編としてときどき掲載している「ウィーゼル製作所物語」をたくさんのリクエストにお答えして転載します。

 (注意:内容は実体験を元にしていますが、フィクションを含み,また,企業名、団体名、登場人物は実在のものとは関係ありません)

第10回分

199×年5月×日 新入所員現場実習の話

 ウィーゼル製作所には1つの伝統がある。それは「新入所員現場実習」というものだ。「普通の研修とどこが違うのだ?」と疑問を持つ方も多いことと思う。一般的な企業における「研修」とは,本配属となる前に自分がこれから従事する業務の基礎知識を身につけたり,あるいは社会人,サラリーマンとしての一般常識(たいていの場合,その会社の通例やシステムの学習がメインだが)を勉強したりするものだが,ウィーゼル製作所のソレはそういうものとはちょっと違う。もちろんそうした一般的な「研修」も行われるのだが,それとは別扱いで「現場実習」は行われるのである。

 ウィーゼル製作所が乾電池から原子力発電所までを製造する世界企業にまで発展したわけは,戦前,日本で最初の発動モーターの開発に成功したことがきっかけになっている。当時のドイツやアメリカからの輸入品よりも国産ウィーゼル製のものは安価で性能にも優れていたそうで,この製品が国内はおろか世界にまでウィーゼルの名を知らしめる立て役者なったようだ。つまり,ウィーゼルの出発点はモーターにあり,モーターこそウィーゼルの魂ということになっているようで,現場実習とは,「新入所員はウィーゼル魂を身につけよ」という主旨の下に毎年行われているのだった。

 さて,この現場実習の場はウィーゼル創業地である茨城県各地の工場で行われる。…はずであったのだが,ウィーゼルの新入所員の数は多いので,実際には1つの工場では全員を賄いきれず,日本各地に点在する工場に分散して行われている。

 分散…?「ということはせっかく一月前に寮に引っ越してきたというのにまた引っ越しですか」…その通りなのである。各企業が無駄なコスト削減に奔走している中,ウィーゼルは再び日本全国に散らばった新入所員を

移動させるのである。言うまでもないことだが,この引っ越しを担当するのは「ウィーゼル運送」に他ならない。一説によると企業内需用の一策だということだが…真実は光り輝くウィーゼル魂の向こうに隠れていてよく見えない。

 そうまでして強行される現場実習,一体何をやるのか…。これについては次回に詳しく語ることとしよう。

「えー,なお,ソフトウェア事業部配属の諸君達の現場実習先は神奈川県海老名工場と茨城県勝田工場と決定した。なお,滞在期間は1ヶ月間だ。」

 人事担当小石の現場実習の説明にざわめく新入所員達。ほとんどの同期は,入社前からそういったウィーゼルの慣例的行事の数々を調べているはずなので「初めて聞いた」という人間は少ないにしても,他の企業がコスト削減の意味合いから研修期間を短くしている中で「やっぱりやるのか,今年も」という驚きはやはりある。

「神奈川,茨城,どちらの工場に行くかは不公平のないように所員番号の前半と後半で決めさせてもらった。なお,変更希望等などは一切受け付けないのでそのつもりで」

 小石のシャア・アズナブル・ボイスはいつもにもまして威圧感を持っていたが,ざわめきは一層大きくなる一方であった。

「それでは発表する。新入所員番号の28番までを神奈川県海老名,それ以降を茨城県勝田とする。」

 ちなみに神奈川県の方に配属されていたとしても結局引っ越しは免れないのであるが,神奈川県の方は半導体とかそういう部類の工場なのでなんとなく楽そうなイメージがある。一方,茨城の方は重電関係の工場なのでちょっと面倒くさそうな感じがする。いくらシャア声で「不公平のないように」といわれても「変更希望は受け付けない」と脅されても,やはりふてくされてしまうのが若者である。

「現地への引っ越しは土日を挟んで明々後日の月曜日だ。荷物はトランク一個分が原則だ。しっかり準備しておくように。」

 この後,何名かの同期が小石に対して「納得がいかない」と猛反発していたが,今回の異動もいわば人事令なので,一社員の文句は聞いてもらえるはずもなく,シャアは怒り狂った同期を適当に言いくるめ,通常の3倍の速度で帰ってしまった。

「せっかく,寮に引っ越してきて片づき始めたのに,また引っ越しか〜」

と暗い面もちで寮に帰宅した私にさらなる追い打ちがけしかかる。

それは寮管の

「おい,お前,西川,また,下駄箱の在室/不在パネル直していかなかっただろ。」

という声だった。

「あのなぁ。寮管の立場としては,電話の受け継ぎとかで,誰が寮にいるのかいないのか分からないと困るんだよ」

…と言い終わったと同時に電話が鳴る。多くの所員が寮に戻る午後7時前後のこの時間帯,各部屋はおろか各階にも電話のないこの「陸の孤『棟』」ウィーゼル独身寮の受付には非常に多くの電話がかかってくるのだ。面倒くさそうに電話に出る寮管。

「えー?403号室の山田さん? ちょっと待ってくださいよ」

老眼鏡に手をやり目を細め,在室不在パネルを凝視する寮管。

「えー,山田さんは不在です」(ガチャ)

私はこのとき403号室の山田さんのパネルが「在室」になっているのを見逃さなかった。

この在室/不在パネルは,本来の役割はほとんど果たされず,ただただ寮管の自己満足だけのために存在しているだけだったのだ。

 衝撃の事実を目の当たりにし,

「この寮管のいない寮を一ヶ月間も出られるのはちょっといいかも」

とプラス思考に考え直し,自分の部屋に向かうのであった。

第11回分

199×年5月×日 当たっても得しない低確率ものの話

 私をはじめとした,現場実習茨城県組は月曜の朝早くバスで横浜を出発,茨城県への移動を開始した。無駄話にも飽きたころ眠りに落ち,目が覚めたときには茨城県勝田市だった。

 寮は横浜の「珠心寮」同様のぼろいところで当然のごとく2人部屋だったが,驚いたことに電話がそれぞれの部屋に2基ずつ取り付けられていた。そう,1人1基の電話機が割り当てられていたのだ。

 その電話機は保留時のBGMがFM音源で演奏されるウィーゼル製のもので,当時後藤久美子が「FM音源でご応対」とかなんとか言ってCMしていた製品だ。発売当時は「テクノロジーの無駄遣いだ」と笑われたものだが,現在の「和音着メロ」ブームを考えると目の付け所はそれほど悪くなかったわけだ。が,売れなかった。で,結局,自社寮に大量導入されたというわけだ。まぁ,なんにせよ,自分専用の連絡手段が持てる上,あの役に立たない珠心寮の寮管の電話交換から逃れられるのは素晴らしい。

 自分の部屋の整理が終わると,今度は実際に研修が行われる勝田工場へ移動することとなった。工場内のどの部署で実習を行うかの配属発表を行うらしい。工場に到着すると同期一同は敷地内にあるビルの広い会議室のようなところに誘導された。

 さて,ここで勝田工場の簡単な説明をしておこう。ここは,半導体の製造から電車の組立まで行っている非常に規模の大きい工場で,その敷地は「東京ドーム何個分」というレベルで広い。構内移動のために構内バスが走っているほどで,最も活気だっていた昔は構内に環状線の列車まで動いていたらしい。そんなわけで部署の数も多く,同じ工場内でもどこに配属になるかでやる仕事が全く違ってくる。

「楽なところに配属されますように…。」

神様には絶対かなえてもらえそうにない不真面目な願いを頭の中で繰り返しつつ,私は配属発表に聞き入った。

 人事担当小石の下っ端,今回茨城組の引率者となった管野は淡々と配属を読み上げる。勝田工場配属は28番からだ。

「新入所員番号28番から34番までのもの,第一半導体製造課」「35番から38番までのもの,第二半導体製造課」

私の所員番号49なので発表は後の方になる。

…「49番は原料課」「50番から53番のものは生産技術課」…

なぜ,原料課は私だけなのだろうか…。

 私は生まれながらにして,「当たっても得しない低確率もの」によく当選してしまう星の下に生まれてきている。例えば,小学校のクラスで人気のない「係」をくじ引きで決めたりするが,夏休みにも動物の世話をしなければならない生物係とかによく当たったりした。そんなわけで,私だけ配属の原料課にはかなりいやな予感がしたのだった。

 全員の配属先の発表が終わると管野は会議室を一度退室し,しばらくして段ボール箱数箱を乗せた台車と共に戻ってきた。

「それでは各配属先で必要となる備品を支給するぞー。まず,第一半導体製造課からー。」

半導体製造系は白衣みたいな作業着を渡されていた。ほとんどの同期に対して配られたのは部署ごとに色や形が違う作業着だったので,私もそうだろうと予想していた。

「原料課。荷物が多いからな。なくすなよ」

実は数箱あった段ボール箱のうち一箱分くらいまるまる原料課の私用のものだった。私はみんなの哀れみの視線をうけながら,他の誰のものよりも重装備の支給を受けたのだった。重装備→大変そう…という図式は誰の目にも明かだった。神は私の不真面目な願いに罰を与えたのだろうか。

 その日はそれで解散となり,全員が寮に戻った。私は部屋に戻るなり,支給された全ての装備を開封し身につけてみた。

 その姿はロボコップのようだった…。

第12回分

199×年5月×日 現場実習で「ウィーゼル魂」を学んだ話

 朝があけ,現場実習,初出勤の日がやってきた。いわゆる工場勤務であるために朝は早く,時間は厳守だ。工場にフレックスなどという生ぬるい出勤制度はないのだ。

 これから,約1ヶ月現場実習の場である勝田工場までは,電話付きの新しい寮の最寄りのバス停からバスに乗ること10分少々で到着する。前回でも解説したように工場とはいえ,べらぼーに広いため,工場の敷地内に到着すると今度は敷地内の各施設を巡回する構内バスへと乗り換える。この構内バスは朝と夕の通勤時にしか運行されておらず,日中の勤務時間中の構内の移動は,敷地内各所に置かれた移動用自転車を利用することになる。とにかく大学のキャンパスなんかとはスケールの違う広さなのである。

 私が「ウィーゼル魂」修得のために現場実習の場として配属させられた原料課は,構内バスの終点にもなっている,敷地内でも最も奥にある辺鄙な場所にあった。

 工場での一日は,作業着に着替え,黄色い安全ヘルメットを被ってからのラジオ体操から始まる。跳躍運動のたびにヘルメットがポコポコと頭に当たるのが非常に間抜けだったのを覚えている。

 ラジオ体操のあとは朝礼だ。その日の朝礼のトップニュースは私のことであった。ワニ顔の,班長と呼ばれているおっさんが,私が横浜のソフトウェア事業部から現場実習に来た新人であることを紹介した。そのあと就業開始の号令が掛けられ,全員がそれぞれの持ち場に散っていった。さて私はどこになにをしに行けばいいのか。

 解散の号令のあと,例のワニ顔班長が,定年間近ではないかと思われる,まさに「茨城のおじーさん」という雰囲気を持つ男と共に私に近寄ってきた。

「西川君,原料課っていうところは,なにやってるところかわかんないべ。んまぁいろんなことやってるんだけども,我々のセクションではだな,電車のパーツとなる基本的な部品を作ってるんだな。電車…わかっか?」

「はあ…。電気で走る乗り物ですよね。」

あえて相手のおちょくりに乗ってみたりする。

「がはは。さすがは大学出だ。物知りだ。」

相手の方が一枚上手のようだ。

「それでよ。何をするにも色んな資格がいるしよぉ,こんなこというのもなんだけどもよ,素人にきてもらってもあまり意味がねえんだなぁ

そりゃあ,もっともな話だ。

「で,原料課は4000時間の無事故記録を更新中でな,ましてや怪我とかされっと,困るんだべな。」

本音が出てきたぞ。

「というわけで,西川君。君には,なーるべく,注意して欲しいというわけよ。これから約1ヶ月間,とにかく,怪我しないようにしてくれればオレはそれでいいからさ。」

つまり,何もしないでいいということですか? も,もしかして,「楽なところに配属できますように」という前回での祈りが天に通じたのかしらん。私は頭の中で小躍りした。

「そして,この柴岡さんが,君の指導員となるからな。今後この人の指示に従ってや」

結局,ワニ顔班長はいいたいことだけ言ってこの老人に面倒を押しつけただけ…という感じがしないでもないが,とにかくワニ顔班長はそこまで言うとその場を立ち去って行った。

「柴岡さん,ボクは何をすればいいんですか。」

「そうだな,まずは事務室で耳栓もらって来な。それじゃ一日で耳がダメになんぞ。」

「…はい。で,そのあとは?」

「ああ,木村班長(ワニ顔)もいってたけどな。やってもらう事ってはっきりいってないのよ。ラインできちゃってるしな。んだからさ,その先にあるロッカーの中の掃除用具適当に使ってさ,工場ん中掃除してくれる?」

「えっ。どこまでやればいいんですか。」

「出来るところまででいいっぺよ。」

これだけいうと柴岡じーさんは自分の作業机に戻り,グラインダーか何かで鉄板を削り始めてしまった。柴岡じーさんの工作機械の動作音がまるで合図にもなったかのように,工場内の各所でけたたましい騒音がランダムなタイミングで一斉に鳴り始めた。

 私は,事務所から耳栓をもらい,いよいよ掃除を始めることにした。

 工場はブチ抜きの平屋構造だが,幅約100m,全長約300mはあり,様々な工作機械が各所に設置されている。場所によっては電車を丸ごとつり上げられるような巨大なクレーンや,電車を挟み込んで回転させる巨大な万力のようなものまで設置されている。その日は動いていなかったがなにやら溶鉱炉みたいなものもある。危険でいっぱいなところだ。未来からターミネーターが私を殺しに来たら,ぜひともここで最終決戦を行いたいものだ。

 工場の床は機械油と鉄粉でまみれており,各作業机で仕事をしている人が新しい鉄粉を火花と共に周囲にまき散らしている。私はモップやほうきを使い,その鉄粉を掃いては捨て,掃いては捨てを繰り返すのだが,床はすぐに鉄粉で真っ黒になる。

 まさに今の自分は,浸水する豪華客船の中でコップで水を掻き出しているノータリンの船員に等しい。

 あとで聞いた話だが,工場内の清掃はプロの清掃業者が休日に来て行うんだそうだ。

 ガーン。

 私は「ウィーゼル魂」をちょっとだけ学んだ気がした。

私の現場実習でやっていたことは期限切れの懸賞にハガキ100枚で応募するほど,無意味な行為なのであった。

第13回分

199×年5月×日 大騒音という静寂の話

 ものすごい騒音の中、ロボコップみたいな重装備を付けたまま黙々と無意味な掃き掃除を数時間続けた私は、だんだんと無の境地に入っていった。

 人間の適応能力というものは凄いもので、始業時間直後は耳栓をしていてもうるさくてしようがなかった四方八方から鳴り響く工作機械の騒音も、次第に気にならなくなる。だんだんそれが「無音」として認識されていくのだ。騒音にかき消されているはずだし、ましてや耳栓もしているので聴覚上は聞こえるはずのない、ほうきの掃く音も聞こえてくるような感じさえする。小学生の頃、夏の雑木林に入り、四方八方から鳴り響く蝉の鳴き声がだんだんと「静寂」として認識されていく感覚を思い出した。もう今の私の脳はスポット溶接機のハンマー音の大合唱を、騒音として認識していないのだ。

 グウ…。

 あろう事か、私は大工場の大騒音の中で、居眠りをコいてしまったのである。大草原の小さな家に住むローラとは比較にならないほどのていたらくである。そう、それはちょうど故障中の溶鉱炉の制御パネルの床下を掃除していた時だった。

 「人間は大騒音の中でも寝ようと思えば寝られるんだね」という、日々、騒音公害に思い悩む人たちからは半殺しに合いそうな大発見をした私は、その感激をかみしめつつ深い眠りに入っていくのだった。

 おそらく、時間にして2分、いや1分くらいだったかも知れない。

 急に工場の隅で動かなくなった私を心配し、柴岡さんがやってきて、肩を叩いた。

「おめぇ、大丈夫べか? なんか急に動かなくなったからよぉ…。体の調子、どこか悪いべか?」

 どうやら、ボクが大発見のあとサスペンド状態に移行したことはバレなかったようだ。ちょうどその時、午前業務終了のチャイムが工場内に鳴り響いた。

* * * *

 昼休みは約1時間。昼食を取るためにだだっ広い敷地の中央にある食堂に全所員がやってくる。敷地があまりにも広いために食堂から遠く離れた部署の人間は、自転車でやってきたりもする。工場外に食べに行ったり、弁当を食べる人たちもいるが、まぁ、多くの人がこの食堂にやってくる。我々現場研修に来た新人達は土地勘もないのでなおさらだ。

 したがって、各部署へ現場研修へ散っていった同期の人間達とは必然的にこの食堂で鉢合わせする事になる。

 まず、驚いたのが、私以外の同期達の作業着の「綺麗さ」だ。私は鉄粉まみれの真っ黒でとても今日おろしたての作業着に見えないのに対して、私以外の同期はみんな新品同様なのだ。どれだけ彼らの「仕事場が綺麗だったか」、「仕事そのものが楽チンだったか」が見て取れる。

「半導体の仕分けのとこめいったんだけどさ、いやぁもう完全にお客さん扱い。ICを発泡スチロールに詰めるだけの仕事だったよ。もう、最後なんて眠くなっちゃったくらい退屈な仕事でさぁ…」

「俺のところは、普通の事務だったんたけど、部外者に重要な仕事任せられないからっていってさ、結局ひたすらデータの打ち込み! 俺も眠くなりそうだったよ。」

 「眠くなる」という現象だけに私のケースとの共通項が見出せるが、その「眠くなる」までの経緯が、私よりもレベルが低い。なにしろ、私は大騒音の中で無の境地を切り開き瞑想に入っていったのだから…。と、まぁ、それはさておき、どこの部署でも、現場実習生の新人はお客さま扱いのようだ。本来は「厳然たる工場勤務によって社会人たる自覚をもつための…」とかなんとか立派な建前があったはずなのだが、どこでもやっかい払いじゃ意味がない。いったい何のためにあるんだ、この制度…。

* * * *

 昼休みの時間が、終わりに近づいてきたときに流れてきたのが、ウィーゼル製作所のCMソングでお馴染みの「木の実、何の実、木になる実」であった。この工場では昼休みの終わりに近づくと、あの曲が流れ始めるのだ。

♪木の実、何の実、木になる実

♪取っても木になる実ですから

♪とっても気になる実になるでしょう

と、まぁ、こんな感じのフレーズが延々に繰り返される曲だ。

 ところが、工場内で流れていたバージョンでは、このフレーズが二回繰り返されたあとに、ストリングスの駆け上がりフレーズが鳴り、続いてテレビCMでは聞いた事のないフックライン(いわゆるサビ・フレーズ)へと突入していったのだ。

♪そして花が咲いて 木の実をつけて

♪枝を広げて 森となる未来がくる

♪その時をその時を あなたと待ちます

♪夢の実、夢の実 その時を待ちます

 ここでやっと一番が終了、つづいて二番へと移っていった。二番の歌い出しは当然「木の実、何の実」である。

 そう、テレビCMで流れている曲は、このフックライン部をカットして編集したAメロ・オンリーのショートバージョンだったのである。工場内で流れているBメロを含むこれこそがフルバージョンだったのだ。

 あの曲に実はBメロが存在するという事実は、意外に知られておらず、今でも家族や友人にこの話をしてもなかなか信用してもらえない。いってみれば、このBメロを知っているか否かでウィーゼル関係者かどうかが判別できるというわけだ。

 現場実習というものはもしかしたらこれを密かに教え込む極秘プログラムだったともいえなくない。となると、ウィーゼルの秘密をあからさまにしてしまった私の命は…危ないかも…?

つづく


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